令和7年10月22日から24日にかけて、熱海市議会総務福祉教育委員会にて、大阪四条畷市と兵庫県高砂市へ行政調査に行きました。
part2は、兵庫県高砂市で広域ごみ処理事業について学ばせていただきました。
日時:令和7年10月23日 午後1時30分~
場所:高砂市 エコクリーンピアはりま
1.高砂市の概要
兵庫県播磨南東部、瀬戸内海沿岸に位置する高砂市は、人口約8万6千人。古くから高砂港を中心に栄え、加古川舟運の要所として発展してきた港町である。 近代以降は、豊富な水資源と遠浅の海を活かした臨海工業の集積により、昭和39年に「播磨工業整備特別地域」に指定。重化学工業の中核都市として播磨臨海工業地帯を形成している。 また、能の演目『高砂』の舞台としても知られ、歴史・文化の両面で特色ある都市である。
2.広域ごみ処理事業の概要
(1)広域化の経緯
高砂市を含む加古川市・稲美町・播磨町の2市2町では、既存施設の老朽化と行政運営の効率化を背景に、平成19年度から広域化検討を開始。 平成22年度に「実現可能性調査」を実施し、
- 経費約26%削減(高砂市単独の場合23%)
- CO₂排出量7%削減
- ダイオキシン類90%削減 などの効果が試算された。
この結果を踏まえ、平成22年12月に2市2町の首長が広域化への参加を正式表明。以後、事業が進められた。
3.事業実施の仕組み
2市2町の広域化にあたり、「一部事務組合」ではなく事務委託方式を採用。 高砂市が事業主体となり、他の市町が事務を委託する形で運営されている。 この方式により、組織体制の簡素化と住民理解の促進が図られた。
4.施設の概要
<可燃ごみ処理施設>
- 処理能力:429t/日(143t×3炉、24時間連続運転)
- 焼却方式:回転ストーカ炉
- 発電設備:蒸気タービン発電機(12,000kW)
- 焼却灰は埋立およびセメント原料として再利用
<不燃・粗大ごみ処理施設>
- 処理能力:34t/日
- 処理方式:低速・高速破砕+選別機
- 鉄類・アルミ類の再資源化を実施
<管理・環境学習施設>
- 環境学習コーナー、再生品展示スペース、屋上庭園などを設置し、市民啓発にも活用。

5.費用と負担
- 総事業費:約242億円
- 財源内訳:
O 国交付金 約84億円
O 残額は2市2町の負担
- 負担割合:
O 建設費:経費の1割を均等割、9割を人口割
O 運営費:ごみ量割
6.発電・売電収入
施設で発電した電力(約6000キロワット/年)を売電し、収入は市に帰属。
売電益は基金積立や運営経費に充当されている。
• 令和4年度 基金積立額 698,493,207円(総売電収入 929,382,685円)
• 令和5年度 基金積立額 614,105,360円(総売電収入 1,088,138,274円)
• 令和6年度 基金積立額 314,961,000円(総売電収入 761,613,027円)
累計 1,627,604,567円(総売電収入累計 2,779,133,986円)
基金は次の更新時の施設解体にも充当を考えている。
7.地域対応・合意形成
施設立地決定(平成25年)以降、地元連合自治会や商工会議所、漁協などで構成される協議会を設置し、令和4年の竣工まで年1〜3回の説明・意見交換を実施。
また、地域振興策として以下の事業を実施。
- ごみ搬入ルート道路の改良・舗装
- 自治会・漁協への補助(上限5,000万円)
- 公園・スポーツ広場整備
さらに、運営事業者には「地元企業への発注」「地元雇用の確保」を求めている。
8.稼働後の課題と対応
- インボイス制度・新紙幣対応による料金徴収システム改修
- 灰クレーンの腐食対策(換気改善)
- 火災感知遅れ防止のため破砕室モニタ設置
- 年末年始の渋滞対策・キャッシュレス決済導入検討
9.所感
このたびの高砂市行政視察に際し、高砂市職員の皆様ならびに高砂市議会の皆様には、快くご対応いただきましたことに、心より感謝申し上げます。
また、お忙しい中ご挨拶を賜りました高砂市議会川端宏明議長様に厚く御礼申し上げます。
「エコクリーンピアはりま」は、2市2町による広域的なごみ処理体制の中核として、平成28年に着工し、令和4年から供用を開始した施設である。年間約11万トンの可燃ごみと約6,500トンの不燃・粗大ごみを、環境負荷を抑えつつ効率的に処理しており、まさに“循環型社会のモデル施設”といえる。
可燃ごみ処理施設では、24時間稼働の回転ストーカ炉3基を備え、焼却時の熱エネルギーを活用して最大1万2千キロワットの発電を行っている。不燃・粗大ごみ処理施設では、破砕・選別工程により鉄やアルミを再資源化し、資源循環に寄与している。
稼働後も、インボイス制度や新紙幣対応に伴うシステム改修、灰クレーンの腐食対策、破砕機室へのモニタ設置など、課題に的確に対応しており、現場での不断の改善努力が感じられた。さらに、年末年始の渋滞対策やキャッシュレス決済導入の検討など、市民利便性の向上にも積極的に取り組まれている点が印象的であった。
また、高砂市環境生活部長からは、広域化による効果として、旧施設(ガス化溶融炉)時代と比べてランニングコストを年間約10億円から約5,000万円へと大幅に削減できたとの説明を受けた。
こうした経済性の向上に加え、発電によるカーボンフリーの推進や、2市2町での新電力会社設立構想など、地域エネルギー循環を見据えた先進的な取り組みも進められている。
広域化の検討開始から施設供用まで約15年を要したが、複数自治体の合意形成や旧施設の処理を経て、これほどの規模の事業を実現したことは大変意義深い。丁寧な調整と確かな行政運営の成果であると感じた。
高砂市の広域ごみ処理事業は、行政の効率化と環境負荷低減を高い次元で両立させた先進事例である。
特に、事務委託方式による柔軟な運営体制、発電を活かした資源循環の仕組み、地域との信頼関係に基づく合意形成は、今後の熱海市における広域化検討においても極めて参考になる。
今後、熱海市東部地域での広域化を進めるにあたっては、経済性・環境性・合意形成の三要素を同時に進めること、広域自治体間の信頼関係をいかに築くか、そして地域住民の理解を得るための情報公開と丁寧な説明を重ねること、が何より重要であると強く感じた。





